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Strategic Behavior for a Legal Person (2)

戦略参謀としての法務担当者の在り方に関する一考察(後編)

· 法務論,逆引法務

本エントリーは、#legalACのエントリーとして投稿しております。また、本稿は、2018年9月14日に大阪弁護士会で行った弁護士向け研修「プロジェクト価値を最大化するための、社内弁護士と法律事務所弁護士との協働」の紙上再現です。

なお、本稿の“前編”は2018年12月18日のlegal AC 2018のエントリーとして公表しております。本稿とともに、"前編"もご高覧頂けますと幸いです。

前編では以下の【1】について述べさせて頂きましたので、後編では【2】から【4】までを一気に(本当に駆け足になっており申し訳ございません)まとめてみたいと思います。

8. 法務はプロジェクトのGeneral Counsel(プロマネの法務参謀)を目指せ

−フェーズ②③におけるstrategic behavior−

General CounselがCEO(経営トップ)の法務参謀なら、プロジェクトにおける法務担当者はプロマネの法務参謀、すなわち、“プロジェクトにおけるGeneral Counsel”としての役割が期待されます。そのための第一は「プロマネの仕事を知る」ということであり、このテーマについては既に前編でお話させて頂きました。ここでは“バイリンガル”を目指すことの重要性についてお話をしたいと思います。

バイリンガルといっても、英語と日本語のバイリンガルではありません。ここでいうバイリンガルは、“法律語”と“経営語”のバイリンガルです。
 

私自身の日々の業務ではもちろん弁護士や法務担当の方々とお話する機会も多いのですが、戦略コンサルの仕事における基本的なカウンター・パートは経営者の方々や事業部門の責任者の方々です。そのような立場の方から、「話し方が弁護士っぽくないですね」と言われることがあります。面と向かって言われることなので、お褒めの言葉だと受け取っているのですが(もしかしたらそうではないのかもしれませんが。。。)、逆に「弁護士っぽい話し方」がどういうものかピンと来ていませんでした。一度、クライアントに率直に尋ねたところ、その方は次のようにご説明下さいました。

弁護士や法務担当者は法的判断やその解釈を述べることそのものが目的化してしまっており、事業戦略や経営課題といった会社の本来的なテーマと話が紐づいていない

この言葉を頂戴したときに、今まで自分がなんとなく意識していたことが綺麗に言語化されました。つまり、戦略コンサルであり弁護士である自分の価値は“法律語と経営語のバイリンガル”であることなのだなと再認識しました。

この意味でのバイリンガルを目指す私には、実は、“カンニング・ペーパー”があります。今日は皆様に事業と法律を結び付けて理解するための手控えとして「事業戦略法務シート」の作成をお勧めしたいと思います。

この「事業戦略法務シート」は、当該プロジェクトの事業要素ごとに法的問題点やその解釈、参考文献等をメモ形式でまとめたものです。皆様がプロジェクトにアサインされた際は、まずはこの「事業戦略法務シート」を作成し、プロジェクトが完了するまでブラッシュアップを続けて頂くと良いのではないかと思います。そして、プロジェクトが終了した後は、「事業戦略法務シート」を部門のナレッジ・シェアのための資料としてご活用頂くこともできます。

では、ここから具体的に「事業戦略法務シート」の作り方をご紹介します。

まず、当該プロジェクトの事業要素を抽出します。コンサルが良く使う事業要素抽出フレームワークとしては次のようなものがあります。

  • サプライチェーン分析:研究開発や原材料調達といった“上流工程”からエンドユーザによる消費といった“下流工程”までの一連の事業の流れをイメージし、事業要素を抽出する方法
  • ヒト/モノ/カネ/情報分析:事業活動に必要なリソースを“ヒト”、“モノ”、“カネ”、“情報”で整理して事業要素を抽出する方法
  • 3C分析:マーケティング環境分析として使われる手法であるが、事業環境を、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)に分け、事業要素を抽出する方法
  • P/L・B/S分析:収益・費用・資産・負債といった主要な会計項目に沿って事業要素を抽出する方法 

例えば、サプライチェーン分析を使って事業要素を抽出すると、以下のようなになります。もちろん、サプライチェーンは事業内容によって異なりますが、「研究開発」「調達」「製造」「販売」「顧客管理」といった大まかな項目は各事業共通ですから、事業要素を分析するための定石の一つとして知っておいて損はありません。

この「事業戦略法務シート」を作成する上で重要なことは、最初から完璧を目指さず、徐々にアップデートをしていく(=アジャイル開発を目指す)ということです。

例えば、プロジェクトのキックオフMTGの場で細かい法律の解釈が必要でしょうか。キックオフの場でプロジェクト・メンバーが求めているのは、プロジェクトを中止せざるを得ない程の致命的な法的リスクがあるのかどうか、致命的とまでは言えないが看過できないリスクがあったとして、それはどの程度のものなのか、というリスクの大局です。であれば、「事業戦略法務シート」もいきなり細かい法律解釈を網羅するのではなく、各事業要素に関連する法領域をまとめておくといったステップから作成を開始し、プロジェクトの進展に応じて、徐々に内容を深掘りしていけばよいのです。

また、「事業戦略法務シート」を作成する際は“ベンチマーク”を意識するということも心掛けて下さい。

戦略コンサルがクライアントから依頼を受けた際、スクラッチから戦略を作り込むケースは多くなく、まずは、ベンチマークとなる事例を探します。ここでいう「ベンチマーク」は“類似の成功事例”といったイメージです。類似の成功事例を当社で再現するための課題は何か、当該課題を解決するための打ち手は何か、これを考えていきます。

法務の皆様もプロジェクトのキックオフMTGに呼ばれた際、プロマネ部門に対し、当該プロジェクトのベンチマーク事例をヒアリングしてみてください。そうすることで、事業戦略法務シートを作成するにあたって、課題となり得る法的論点とそのソリューションについて“あたり”をつけることが容易になりますし、何より、プロマネ部門に対してプロジェクトに対する前向きな姿勢を見せることができます。

9. リスク分析はリターンとのバランスで行うべし

−フェーズ④⑤におけるstrategic behavior−

では、次に、プロマネの法務参謀はどのようにリスクを語るべきかについて私見を述べさせて頂きます。

リスクは、意思決定の考慮要素の一つであり「あるか/ないか」が重要なのではなく「踏めるか/踏めないか」の判断が重要です。より正確に言えば、「(リターンとの見合いで)踏むに値するか否か」の判断が必要となります。しかし、リターンとリスクは通常“apple to apple”で比較できないという難しさがあります。そこで重要になるのは、プロマネとその法務参謀である法務担当者が同じ目線でリスク評価ができること、そしてそのためには、リスクはできるだけブレークダウンしてその内容を示す(見える化する)ことが重要となります。

法的リスクを“見える化”するためのフレームワークとしては、法的リスクを「法令違反そのものの影響の大きさ」「法令違反の発生確率」「ダメージコントロールの成功度」にブレークダウンするアプローチがオススメです。なお、このフレームワークについては、紙面の都合(大人の事情)で、拙著「事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック」の「法的リスク」(2頁〜9頁)をご笑覧頂けますと幸いです。

ここで終わるとただの書籍の宣伝になってしまいますので、リスク分析について3点、tips的な補足をさせて下さい。まず1点目は「ソフトバンク流法的リスク分析アプローチ」についてです。「契約書は損害賠償条項から読め!」(=「契約を守る」というのも選択肢の一つに過ぎない。契約違反のリスクを具体的にシミュレーションすることが法務の仕事!)というSB流アプローチについては、こちらの記事(2015年開催のNewsPicksセミナー)で語っておりますので、よろしければご笑覧頂けますと幸いです。

2点目は「タイム・マネジメントの重要性」です。“見える化”という観点とは少し異なりますが、クライアント部門であるプロマネ部門からの信頼度を高めるためのtipsです。

一言でいえば、レスの早い弁護士・法務担当はそれだけで“5割増し”です。すぐに回答を返すことができない場合でも、①依頼を受領したこと②一次回答をいつまでに返送するか、の2点をタイムリーに返信するだけでも、依頼部門の信頼感が高まります。

また、このことは、社内の法務担当者が外部の専門家に対して調査を依頼する場合でも同様です。外部専門家からレスを早く引き出すためのコツとしては、次のような工夫の仕方があります。

  • 初期的な論点整理を●日までにお願いできませんか」:まずは、そもそも当該施策に法的問題点があるのかどうか、その程度は致命的なものかどうか、について初期的な回答を引き出しましょう。依頼された側もクライアントから「初期的な」という前提をつけてもらうことにより、回答がしやすくなります。
  • 一次回答を●日までにお願いできませんか」:二次回答や最終回答は別途受領することを前提として、初期的な一次回答を期限を切って依頼する方法です。より回答を早めたいのであれば、「先生のこれまでのご経験に基づく温度感で結構ですので」とか「先生の手元にある資料から分かる範囲で結構ですので」などと制約条件をつけてあげることにより、依頼された側も安心して回答しやすくなります。
  • 中間報告を●日まで、その後、最終報告を●日までにお願いできませんか」:これも上記と同様です。デュー・デリジェンスのレポート作成を依頼するような場合には、このような依頼方法が効果的です。

3点目は“ダメージコントロールの成功度”に関するtipsですが、「紛争解決にあたっては“正義がどちらにあるか”が重要。但し、正義は移動する」ということを知っておく必要があります。コンプライアンス事例や紛争事例、例えば、闇営業をした芸人とその所属事務所の紛争事例を思い出してみると、「叩かれていた側が叩く側に移動する」ことがあります。紛争事例では、「正 対 不正」の構図において「正」の側に立つ(=そのようにシナリオを作り、キャスティングし、演出する)というのが鉄則ですが、「正義は移動する」ということを忘れてしまっている当事者の方が多いという印象です。こちらに正義があっても、相手の攻撃に過剰反応(過剰防衛)してしまうことで、その正義が相手方に移動してしまうということがあるのです。たとえ、クレイジーを相手にする場合でも、“正 対 不正”の構図を崩してはいけません。

10. 法務は“法的見解”ではなく“課題解決”を提供するべし

−フェーズ⑥⑦に関するstrategic behavior−

少し話がそれますが、いわゆるコンサルタントの仕事を一言で表現するなら、それは「課題解決」です。そして、法務も同じであるべきだと思います。クライアント部門が期待しているのは“法的見解”ではなく“課題解決”です。例えば、ある施策について法的な問題があるということになった場合、事業部門が法務部門に求めるのは「NO」という二文字ではなく「代替案の提示」です。

「課題解決」の前提となるのが「適切な課題把握」です。

課題そのものは関係者間で当然の前提になっているのでは?と思われる方が多いかもしれません。しかし、コンサルティングの現場でまず時間を使うのは、この「適切な課題把握」なのです。なぜか?その理由は、本人が“真の課題”に気付いていない、これに尽きます。

例えば、クライアント先に“増収減益”の事業があったとして、その課題とソリューションを提案するプロジェクトを任されたとします。原因分析をしていくと、「利益率の低いプロダクトにリソースを多く投下してしまっている」というファクトが発見されたとします。これを“課題”と定義し、「利益率の高いプロダクトにリソースを集中する」ことを“ソリューション”とするのは表層的な課題把握の典型例です。実はここに真の課題はありません。

「利益率の低いプロダクトにリソースを多く投下してしまっている」なんてことは、現場の誰しもが理解していることがほとんどです。なのに“増収減益”の状態が続いてしまっている。であれば、真の課題はそれではないのです。「なぜ、これまで、利益率の高いプロダクトにリソースを集中することができなかったのか」というのが検討すべき真の課題なのです。

真の課題は保身やしがらみといった組織の中での人間関係が原因となっている例は極めて多いといえます。コンサルタントが提案するソリューションは“合理”の概念の産物だと思われるかもしれませんが、現場のリアルでは、“情理”の中にこそソリューションが隠れていることが多いというのが私のコンサルとしての実感です。原因分析のために本当に必要な作業は、ロジカルに作ったQAシートに基づくヒアリング作業ではなく、タバコ部屋に通ったり、“飲ミュニケーション”を通じて現場スタッフの本音を引き出すということだったりします。

この点は外部の専門家には非常に見えにくい領域です。ある法的問題点を回避するための対案としてA案を提案したにも関わらず、プロマネ部門がこれを拒否した場合、このA案が本当に事業としてワークしないのか、それとも、組織固有の問題が背景となってA案を採択できない理由が生まれているのか、このような組織内の真の課題把握については、社内の法務担当者の方にアドバンテージがあります。

そして、「適切な課題把握」ができたら、次は、「ソリューションの策定」です。

上記でも述べた通り、ソリューション策定のためには、ベンチマーク事例を探すというのが定石となります。国内のみならず、国外の類似事例もあたり、当該事業における法的な建付けを参考にするというのが基本的な作業でしょう。

それでも見つからなかった場合には、ソリューションをスクラッチから作る必要があります。その際に参考として頂きたいのは「多元的(二元的)な思考方法」です。あるベクトルの思考と、角度を変えた思考を組み合わせてみる、という方法。これはオプション(選択肢)を作成するときに有効な思考方法です。

例えば、交渉シナリオを作る場合、縦のシナリオ(連続的な案)だけではなく、横のシナリオ(非連続的な案)も組み合わせてみるとよいと思います。単純な価格交渉における交渉オプションを準備するときに「A案として単価100円の提案、B案として、譲歩して、単価120円の提案」、これは「縦のシナリオ」です。そうではなく、「A案として単価100円の提案、B案として単価120円とする代わりに保守を2年間無料」のように、A案とB案が等価になるような「横のシナリオ」にも発想が至るかどうかが法務の腕の見せ所です。

他にも、「時間軸を変えてみる」、「別種の要素と組み合わせてみる」といったアプローチもありますが、それはまた別のテーマでお話ししたいと思います。

11. おわりに

2018年9月に行ったセミナー講義を足掛け2年で再現してみました。90分のセミナーだったのですが、文字に置き換えると結構な量になってしまいました。前編・後編の両方をお読み頂いた読者の方、本当にありがとうございます!!!

明日は、簡(漢?)にして要を得たご発信で有名な、@keibunibuさんのエントリーです!

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