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Strategic Behavior for a Legal Person (1)

戦略参謀としての法務担当者の在り方に関する一考察(前編)

· 法務論,逆引法務

本エントリーは、#legalACの一環として投稿しております。また、本稿は、2018年9月14日に大阪弁護士会で行った弁護士向け研修「プロジェクト価値を最大化するための、社内弁護士と法律事務所弁護士との協働」の紙上再現です。

1. イントロダクション

-事業部門/法務部門/社外弁護士の役割分担-

本稿の目的は、事業プロジェクトの価値を最大化するための、社内法務部門、社外弁護士、そしてプロジェクト主管部門である事業部門の協働について、そして、法務担当者と社外弁護士の両者を含むlegal personが、プロジェクトにおける自身の価値を最大化するための戦略的なキャリアデベロップメントについて、それぞれに関する“試案”を皆様にご提示することにあります。

では、本稿のイントロダクションに代えて、新規事業開発プロジェクトを例にとり、事業部門、法務部門、社外弁護士の一般的な役割分担の例を見ていきたいと思います。

新規事業開発のプロセスは、①「〇〇事業を立ち上げよう」という事業アイデアが社長又は事業部門で立ち上がり、その検討がスタートします。②当該事業の構成要素がある程度整理されてくると、事業部門側で「この事業の〇〇部分はなんだか法的にやばそうだ」という漠然とした問題意識が生まれてきます。そして、③「個人情報保護法が問題となりそう」「独禁法が問題となりそう」という対象法領域が明らかになってきたところで、「じゃあ、法務部門に相談してみようか」となることが多いのではないでしょうか。

④バトンを受けた法務部門では、「これは〇〇法の〇〇条の〇〇という文言の解釈の問題だ」という論点抽出を行い、その後、⑤調査・分析作業を自ら行い、また、その必要に応じて、社外弁護士にアウトソースします。⑥調査・分析の結果、「法令抵触の可能性あり」と結論付けられた場合、法務部門で代替案を検討し、それを事業部門に対してフィードバックします。⑦事業部門では、当該フィードバックに基づき、「原案のまま進めるか、法務部門が作った代替案でいくか、それともあきらめるか」という事業のGO/NO GOに関する意思決定を行う、このような役割分担が多いのではないでしょうか。

私がこの役割分担を「一般的なものかもしれない」と思ったのは、実は、ソフトバンクを辞め、現在の会社で多くの事業部門・法務部門を外から見るようになってからです。ソフトバンクにおける法務部門の関与はこれとは全く異なっていました。

ソフトバンクでは、事業開発でもM&Aでも、法務部門が最初から最後まで関与するのです。もちろん、私は、この形を唯一無二の理想形だと考えているわけではありません。会社ごとに最適な役割分担の形が存在すると思います。しかし、このような法務の形態が実際に機能しており、そして、あの稀代の経営者が率いる超攻撃的な事業会社を支えているというのも、また一つの事実なのです。

もちろん皆様の会社、また、皆様が顧問を務められている会社における法務部門の在り方は、これとは別にご検討頂く必要がありますが、しかし、その場合でも、あるcutting-edgeなモデルを念頭に置いて、それとの対比や修正という形であるべき姿を検討いただくというのも、また効果的なアプローチではないかと思い、一案としてご提示させて頂ければと考えております。

このモデルを例にとり、①から⑦のフェーズを次の4つに分け、それぞれについて、法務部門が戦略参謀としてプロジェクトに貢献するための重要事項を私なりに整理し、お伝えできればと思います。

具体的には、以下の【1】【2】【3】【4】が本稿のテーマとなりますが、紙面の関係上、本エントリーとして下記の【1】を取り上げ、【2】以降については別途公表させて頂く予定です

2. 法務はプロジェクトの初期段階から参加するべし

-フェーズ①におけるstrategic behavior-

繰り返しとなりますが、法務がプロジェクトの初期段階から関与することは、役割分担の形として唯一無二ではありません。しかし、次のとおり、事業部門の声として、法務部門が事業検討の初期段階から関与することにメリットを感じ、また、法務部門の当事者意識の欠如にフラストレーションを抱えているという事実も指摘されています。

では、法務部門が初期段階から事業部門に声をかけてもらうにはどうすればよいでしょうか。一言でいえば、“事業に貢献できる付加価値”だと思います。例えば、クロス・ボーダーの案件であれば、法務担当者の中に英語・中国語で交渉できる人材がいれば、間違いなく初期の段階から声がかかるでしょう。しかし、本稿で私が皆さんに提案したい付加価値は語学スキルではありません。少し厭らしい言い方になってしまいますが、皆さんが転職するときに、ご自身の市場価値をもっとも高めることができる付加価値は何か、ということです。

私は、その答えは“プロマネ力”(ぷろまねりょく)だと思っています。上司が部下をマネジメントする能力とは別の、事業プロジェクトの価値を最大化するマネジメント力のことです。社内弁護士も社外弁護士も“プロマネ力”を修得し、“巻き込み力”と“巻き込まれ力”をともに身に着け、プロジェクトの初期から必要とされる“人財”を目指すことを提案したいと思います。

すなわち、これは、「明日から皆さんプロマネをやりましょう」という単純な話ではなく、プロマネ力を身に着けるということは、人を巻き込む“巻き込み力”だけではなく、人にうまく巻き込まれる“巻き込まれ力”を身に着けることも意味します巻き込まれ力は、プロマネのハイレベルな指示を適切にブレークダウンし、積極的に(先回りして)動く力です。“プロマネの戦略参謀”としてプロジェクトマネジメントをアドバイスすることも必要となるのです。

私は、戦略コンサルをはじめてからこの考え方に至ったわけではありません。私の法律実務の師である須崎將人さん(元ソフトバンクグループ法務部長、現常勤監査役)から叩き込まれてきたものです。詳細については、須崎將人「法務部はM&Aのコーディネーターとなれ!」(ビジネス法務、2012年1月号)を是非ご覧いただきたいと思います。

師匠が日頃から法務部員に対し口酸っぱくおっしゃっていたのは、「法務部員は契約書職人になるな!」という言葉です。「契約書を作るな」という意味ではありません。「契約書マシーンで満足するな」という意味です。単純な契約書作成といった単純業務をAIが代替することの脅威が叫ばれるうんと以前から、師匠は法務パーソンが身に着けるべきスキルセットをプロマネ力だとおっしゃっていました。

3. プロマネとは

プロジェクト・マネジメントといっても、MBAで学ぶ高尚な理論が必要になるわけではありません。プロマネを私なりに定義すると、①「体制図」②「スケジュール」③「TODOリスト」の3点セットを最初にメンバーに共有し、最後まで管理する者、これがプロマネです。

①体制図というのは、当該プロジェクトを担当する社内・社外のメンバーを一覧化し、その指揮命令系統(chain of command)をダイアグラムの形式で整理したものです。その目的はメンバーを一覧化することですが、その真の目的は「このプロジェクトにおける意思決定者は誰か」という点を明らかにし、初回のkick offミーティングで既成事実化するための極めて重要なアイテムなのです。

我々、外部のコンサルが社内のプロジェクトをサポートするときに一番怖いのは“梯子外し”のリスクです。対面の担当者と話を詰めてきたのに、突如、隠れラスボスが登場し、これまでのプロセスの積み重ねをあざ笑うかの如く、プロジェクトを光のかなたに消し去ってしまう、そんなことが起こりえるのです。このような事態は、「プロジェクトの意思決定者を十分に巻き込んでいなかった」ことから生じます。ですから、我々がプロジェクトに関与する場合は、必ず、意思決定者が誰かに最も意識を払います。そのためのアイテムとして体制図を準備し、そして、意思決定者に対しては時間をかけてプロジェクトの進捗をきめ細かに報告し、そしてその指示を仰ぐことにコストを惜しみません。

②TODOリストは、当該プロジェクトを進めるためのアクション・アイテムを整理したものです。プロマネが精緻なものを準備する必要はなく、プロジェクトの始めから終わりまでに、誰が何をしなければならないのか、まずはそのイメージがつく粒度のものを暫定的に作成します。そして、それを各部門にレビューしてもらい、粒度をよりきめ細かなものにしていきます。これにより、関係者の役割分担を明確するとともに、TODOの抜け漏れ(部門間のポテンヒット)を防ぐことができます。

③スケジュールは、TODOラインに時系列を加えたものとなります。これは、デッドラインをコミットするためのものではありません。全体的な時間軸を関係部門間で共有するとともに、当方でコントロールできないプロセス(例:契約交渉における相手方の持ち時間)についての共通認識を持つためのものとして準備します。

4. ポジションの取り方

では、明日から、法務部門がこの3点セットを用意して、「このプロジェクトは法務がプロマネをします。」と宣言しますか?さすがに違和感満載ですよね。関係部門からの冷ややかな視線が想像されます。実はプロマネにとっての必要なスキルの一つが、“上手なポジションの取り方”です。

この“ポジションの取り方”というのは、我々外部コンサルがプロジェクトの導入シーンにおいて最も留意する点です。外部コンサルはクライアント企業に対して必ずしも友好的な入り方をするわけではありません。その会社でプロジェクト推進や経営企画として、いわば社内コンサル的な立場で仕事をしてこられた方からすれば、「誰だ?お前は?」となることも少なくありません。そこで、相手の懐に上手にもぐりこむための工夫というのは極めて重要なプロマネ力なのです。

進捗が芳しくないあるプロジェクトに我々のチームがアサインされたとします。その時に、「今日から〇〇さんに代わってプロマネを務めさせていただきます。」などと外様が言おうものなら、それだけでプロジェクト失敗です。こういう場合は、“大人言葉”(おとなことば)を使って、ポジションをとっていきます。例えば、「〇〇さんのプロマネの下、我々は、その“交通整理”をお手伝いさせて頂きます」とか「〇〇さんのプロマネの下、我々は、我々は進捗管理をお手伝いさせて頂きます」といった具合です。そして、重要なことは、意思決定者の前で、それを宣言するということです。その上で、上記の3点セットをマネジメントしていれば、誰が何と言おうが、それがプロマネなのです。

ちなみに、交渉術でもよく使う手なのですが、会議室での“ポジション”の取り方のセオリーがあります。交渉や会議のイニシアティブをとる最も簡単な方法、それは、ホワイトボードの近くに座ること、又は、プロジェクターの近くにパソコンをもって座ることです。そして、自分にとって都合のいい発言だけを残していけばいいのです。反対意見の記載も求められるかもしれません。その場合にはいったん記載しておきましょう。そして、頃合いを見計らって、「じゃあ、様々な意見が出ましたので、ここで一旦論点整理させて頂きますね。」などと言いながら全てを消して、また自分の都合のいい意見だけを再掲すればいいのです。

5. プロマネのための“ハード・スキル”

プロマネを務めるためには、部門横断的な会話ができるようになるための、他の専門分野に関するある程度のリテラシーも身に着けておく必要があります。

これを「T字型スキル」と呼びます。すなわち、自身の高い専門性に加え、他の専門家に対して適切な質問(論点設定)ができる程度の他分野のリテラシーを身に着けるという意味です。やはり「法務でドーン」のI字型スキル・セットでは、プロマネのハード・スキルとしては十分ではありません。関連領域のリテラシー広くかつある程度の深さで身に着けることで、他の部門担当者とも会話ができるようにすることが必要です。

問題は、スキル・セットをT字型にするために「何を」「どのように」身につけるかです。まず、範囲についていえば、上図のとおり、①「事業」②「財務」③「会計」④「税務」に関するリテラシーが欲しいところです。これらを修得するための方法論ですが、法務部門の方は、司法試験をはじめ、各種試験勉強に手慣れていらっしゃると思いますので、やはり試験勉強で手っ取り早くこれらの知識を身に着けてしまうのがよいと思います。

①事業の理解については、MBA的なフレームワークが必要になるわけではありません。まずは、自社(外部弁護士にとっては主要な顧問先)の“儲けの仕組み”を知るということが重要です。特に複雑な話ではなく、儲けというのは、収益から費用を引いたもの、端的に言えば「売上-コスト」です。そこで、その両者について重要な数字を知っておくということが必要です。売上については、全体売上ではなく、セグメント売上を確認し、自社の稼ぎ頭の事業が何かは把握しておきましょう。コストについても、費用項目をザッと概観し、自社の事業にとって最もインパクトの大きいコストは何かは把握しておいて下さい。そして、これらを経年で把握するように努めれば、法務パーソンの事業の理解としてはまずは十分だと思います。

なお、これと併せて自社の事業構造をサプライチェーンで把握しておく、という方法については、次回になってしまいますが、【2】「法務はプロジェクトのGC(プロマネの法務参謀)を目指せ」で解説予定の「事業戦略法務シート」というアイテム活用頂くのがよいと思います。

②財務については、「証券アナリスト試験」の勉強が最も効率的でしょう。もし、自身の法務業務の中にコーポレートファイナンスやM&Aが含まれており、実際の業務を通じてこれらを学習する機会のある方は、石野雄一『道具としてのファイナンス』(日本実業出版社、2005年)を実際にパソコンを使いながら演習を行いつつ5回くらい回すという方法が手っ取り早いと思います。

③会計については、「日商簿記検定」「ビジネス会計検定試験」がおすすめです。①から④までのうちで「何から始めよう」と悩んでいる方がいらっしゃったら、迷わず簿記2級の勉強を開始して下さい。私は、法務部門担当者にとって、簿記2級ほど、費用対効果の高い試験はないと思っています。「仕訳で取引を理解する」という発想は、法務パーソンにとってまさにコペルニクス的転回です。

「日商簿記検定」が仕訳という経理の実務を学ぶものであるのに対し、「ビジネス会計検定試験」は会計の理論を学習したい方に最適です。学習の順序としては、まずは簿記を先行させ、その後に、会計の理論を深めたい方が「ビジネス会計検定試験」にチャレンジするのがよいと思います。

④税務については、「税務会計能力検定」がおすすめです。企業法務を担当する方は、法人税法の1級を目指すのが良いと思います。学習の方法としては、いきなり1級の勉強に取り掛かるのではなく、まずは、3級から始め、法人税法の全体像を薄く理解した後で、2級、そして1級と徐々に各論の理解を深めていくという方法がおすすめです。

6. プロマネのための“ソフト・スキル”

最後に、プロマネのための“ソフト・スキル”についての私見です。法務パーソンがプロマネとして、またプロジェクトの戦略参謀として活躍するためには、「法務マン」×「ビジネスマン」×「サラリーマン」のいずれについても優秀な人材を目指す必要があると考えてます。

ビジネスマンとしての優秀さは、T字型スキルを磨くことで身についてくると思います。法務部門というクローズドな環境だけでなく、部門横断的にディスカッション(特に、事業・会計・財務の部門担当者とは“数字”で会話)ができる人材を目指す必要があります。

ここで強調したいのは「サラリーマン」としての優秀さです。ソフトバンク時代に最初に担当した案件で、役員から言われたことがあります。「宮下君、優秀なサラリーマンとはどういう人間だと思う?」当時の私は、弁護士ホヤホヤ、社会人ホクホクの状態でしたので、「何でも一人でこなせる人間だと思います」と自信満々に答えました。そうすると、その役員は「答えは、全く違う。そして、むしろ逆。」というのです。「君は何もできなくてもいい。但し、ある問題を相談されたら、その問題を解決できる人間が社内のどこにいるかを的確に答えることができて、しかも、その人間につなぐことができれば、それは最高のサラリーマンだ」と。

これは社内外の人脈の重要性を表しています。誤解されがちなのですが、我々コンサルがクライアントからそれなりの水準の報酬を頂くことができるのは、事業戦略をきれいにパワーポイントにまとめることができるからではなく、「この戦略を実現するためにはパートナー企業が必要ですよね。じゃあ、孫さんのアポを取りますね。」といった、人と人をつなげる力に対する対価という性格が強いように思います。

もし皆さんが、「この案件なら、〇〇さんに聞けばいいよ。先に私からメールしておくから、後で電話してみて。」と言える人材であったとしたら、事業部門の人もそんな人を放っておきませんよね。

7. 今後の掲載予定

本エントリーでは、本稿の前半部分について、「社内弁護士も社外弁護士も“プロマネ力”を修得し、“巻き込み力”と“巻き込まれ力”をともに身に着け、プロジェクトの初期から必要とされる人財を目指す」について考えを述べさせて頂きました。

なお、本稿の後半では、【2】法務はプロジェクトのGC(プロマネの法務参謀)となれ(社内弁護士と社外弁護士が「事業戦略法務シート」を早期に作成し、プロジェクトが完了するまで両者でブラッシュアップを続ける。)、【3】法務はリターンとのバランスでリスク分析を行うべし(リスク分析は、リターンとのバランスにおける相関的評価であり、社外弁護士のみでなし得るものではない。この作業にあたっては、社内弁護士の優れた事業感覚(リターンに関する感覚)が求められる。)、【4】法務は“法的見解”ではなく“課題解決”を提供するべし(事業部門が法務部門に期待するのは「NO」という二文字ではなく「代替案の提示」である。しかし、これには「適切な課題把握」が必要となる。)について考えを述べる予定です。

#legalACの次のエントリーは、Pちゃん(@elv_p_chan)さんです。

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