サイトへ戻る

M&A Contract Seminar: Tax Planning Vol. 1

クロス・ボーダーM&Aのタックス・プランニング(前半)

· 逆引MA書式,渉外法務

今回は、クロス・ボーダーM&Aのタックス・プランニングの概要(前半)について解説します。

【参考文献】

  • 加本・タックス:加本亘『国際タックスプランニングの実務』(中央経済社、2014年) 
  • 佐和・国際税務:佐和周『国際税務のよくあるケース50』(中央経済社、第2版、2017年)

【0】前提-税務の基礎知識-

  • 課税標準:課税の対象、すなわち、課税標準は「所得」であり、「所得」は「益金」から「損金」を控除して算出される。
    • 益金:企業会計における「収益」に対応する概念であるが、「受取配当等の益金不算入」(法人税法23条)等、「益金≠収益」となる項目も存在する。
    • 損金:企業会計における「費用」に対応する概念であるが、「寄付金の損金不算入」(法人税法37条)等、「損金≠費用」となる項目も存在する。

【参考:法人税法】

21条(各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)

内国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とする。

22

  1. 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
  2. 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
  3. 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
    (1) 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
    (2) 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
    (3) 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
  4. 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
  5. 第2項又は第3項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第115条第1項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
  • 節税の視点:以上により、益金を減らすか、又は、損金を増やすことにより、所得を圧縮するというのが節税のための基本的な視点となる。

【1】総論-タックス・プランニングの視点-

  • モデル・ケース:本書では、以下を“モデル・ケース”として、各論点の解説を行う。
    • モデル・ケースは、日本に所在するJPN社が、進出対象地域であるA国所在のPNR社を現地パートナーとして、合弁会社であるJV社を同国に設立するものである。
    • また、JPN社は、JV社の持分割合の過半数を取得することを希望しており、出資割合は、JPN社が60%を取得し、JV社はJPN社の子会社となることも想定されている。
  • タックス・プランニングの視点:クロス・ボーダーM&Aにおけるタックス・プランニングを行うにあたってポイントとなるのは、「海外事業の収益をどのように効率よく日本の本社に還流するか」という視点である。
    • モデル・ケースを用いて海外収益の本社への還流を説明すると、①JV社が低税率国で事業を行い、収益を上げ、②JPN社がJV社との間で、商品売買・役務提供・貸付け等の一定の取引を行い、当該収益を還流させ、③JV社に利益がある程度たまった段階で、配当という形で収益を還流させ、④最後に、JPN社はJV社の持分を第三者(又は相株主であるPNR社)に対して譲渡することにより利益を確定させる、という流れを経ることになる。
    • 上記①から④それぞれのプロセスにおいて、タックス・ロスを最小化するようなプランニングが必要となる。

【2】ステップ①-低税率国で稼ぐ-

  2-1 概要-タックスヘイブン対策税制の概要-

(参考:加本・タックス131頁、佐和・国際税務116頁)

  • タックスヘイブン対策税制:まず、ステップ①について、JPN社が低税率国であるA国においてJV社を通じて事業を行おうとする場合、タックスヘイブン対策税制(CFC:Controlled Foreign Corporation)への配慮が必要となる。
    • タックスヘイブン対策税制とは、所得に対する課税がないか又は著しく低い国・地域にある法人で、日本の法人・居住者により株式・出資の保有を通じて支配されている法人の所得について、適用除外要件を満たす一定の場合を除き、その持分に応じて、当該法人の株主・出資者である日本の法人・居住者に合算して課税される制度である(措置法40条の4、66条の6)。
  • 規制の枠組み:タックスヘイブン対策税制の規制枠組みは以下のとおりである。
  • 旧法との比較:改正法により、“トリガー基準”は廃止されることになったが、結論的には、租税負担割合30%以上である場合は合算課税の適用はなく、また、20%以上の場合も「特定外国関係会社」に該当しない場合(“ペーパー・カンパニー”等に該当しない場合)には合算課税の適用はないことになる。
  2-2 外国関係会社等
  • 概略:タックスヘイブン対策税制が適用されるのは、「外国関係会社等」の株式等の10%以上を直接及び間接保有している場合、又は実質支配している場合である。
    • ここに、「外国関係会社等」とは、外国法人のうち、発行済株式総数等の50%超を内国法人等に保有されているもの、又は実質的に支配されているもの等をいう(措置法66条の6第2項1号)。
  2-3 特定外国関係会社の場合
  • 特定外国関係会社:法は、次のものを「特定外国関係会社」と定義している(措置法66条の6第1項柱書)。
    • 類型①:ペーパー・カンパニー
    • 類型②:事実上のキャッシュ・ボックス(総資産に対する受動的所得及び金融資産等の割合が高く、経済活動が十分に行われていないタイプの会社)
    • 類型③:ブラックリスト国所在会社(財務大臣が指定する国に所在する会社)
  • 特定外国関係会社となった場合の効果:特定外国関係者は、原則として、合算課税の対象となる。但し、「租税負担割合」が30%以上の場合には合算課税が行われない。
    • なお、「租税負担割合」とは、外国関係会社が課される外国法人税等の額が、現地法令により計算した所得の金額(現地法令上は課税標準に含まれない、いわゆる「非課税所得」等を加算した金額)に占める割合(≒実効税率)をいう(措置令39条の17の2)。
  2-4 対象外国関係会社の場合
  • 対象外国関係会社-経済活動基準-:法は、特定外国関係会社以外の外国関係会社のうち、次の「経済活動基準」を満たしていないものを「対象外国関係会社」、満たすものを「部分対象外国関係会社」と定義している(措置法66条の6第2項3号、6号)。
    • 事業基準:外国関係会社の主たる事業が株式等の保有等の一定の事業に該当しない
    • 実体基準:外国関係会社が、その本店所在地国に事務所、店舗、工場その他の固定施設を有している
    • 管理支配基準:外国関係会社が、その本店所在地国において、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っている
    • 以下のいずれか
      • 非関連者基準:外国関係会社が、その事業を主として非関連者との間で行っている
      • 所在地国基準:外国関係会社が、その事業を主として本店所在地国において行っている
  • ルール枠組みのイメージ:①当該外国子会社に経済活動の実体がない場合には全額合算し、②当該外国子会社に経済活動の実体がある場合には、受働的所得(事業活動そのものと関係のない所得)以外は合算しない、という建付けである。
  • 対象外国関係会社となった場合の効果:原則として、合算課税の対象となる。但し、租税負担割合が20%以上の場合には合算課税が行われない。
  • 部分対象外国関係会社となった場合の効果:原則として、一定の利子や配当等の「受動的所得」は合算課税の対象となる(措置法66条の6第6項)。但し、租税負担割合が20%以上の場合には合算課税が行われない。
    • 受動的所得:株式の配当、債券の利子、無形資産の使用料等、自ら活動しなくても得ることが可能な所得をいう(措置法66条の6第6項)。旧制度で「資産性所得」と呼ばれていたものである。
    • 趣旨:たとえ、経済活動の実体が存在する外国子会社であっても、株式や無形資産を大量に保有させ、受働的所得を当該会社に集中させることは合理的ではないからである。

【3】ステップ②-取引で資金を還流する-

  3-1 概要
  • 概要:次に、ステップ②として、JPN社が、JV社と一定の取引を行い、当該取引の対価として資金を還流するという方法の具体例としては、次のような形態が考えられる。
    • 商品販売:JPN社からJV社に対して商品を販売し、JPN社が販売代金を受領する。
    • 役務提供:JPN社からJV社に対して役務(例:知的財産権のライセンス)を提供し、JPN社が役務提供の対価(例:ロイヤルティ)を受領する。
    • 金銭貸付:JPN社がJV社に対して貸付けを行い、JPN社が利息を受領する。
  • 検討を要する税制:上記のような取引を実行するに当たっては、①移転価格税制の適用、②源泉徴収税の適用、③過小資本税制/過大支払利子税、④輸出免税に関する検討が必要となる。
  3-2 移転価格税制

(参考:加本・タックス69頁・165頁、佐和・国際税務49頁)

  • 問題の所在:JPN社がその子会社であるJV社から取引の対価を受け取る際、移転価格税制の問題に留意が必要となる。ここに、移転価格税制とは、日本企業とその国外関連者との取引の価格(例:親会社から海外子会社に対する年間販売額5億円)を、独立企業間価格(例:8億円)で計算し直して課税所得を計算(例:差額3億円を所得加算して再計算)するものである。
  • 対象会社-国外関連者:移転価格税制の対象となる国外関連者とは、発行済株式総数の50%以上の株式を直接又は間接に保有する関係、又は、50%以上の出資関係がない場合でも役員関係、取引依存関係、資金依存関係等で実質的な支配関係が認められる関係にある外国法人をいう。
  • 対象価格-独立企業間価格:移転価格税制が適用されるか否かについて最も重要となるのは、取引価格が「独立企業間価格」となっているか否かである。日本においては、独立企業間価格の算定方法として、以下の5つの方法が規定されており、それぞれの事案に応じて、最適な方法を選択することになる。
    • 独立価格比準法:検証対象となる関連者間取引と、比較対象となり得るほどの類似性を有する非関連者間取引で用いられている価格を直接的に比較する方法
    • 再販売価格基準法:検証対象となる関連間取引と、比較対象取引の売上総利益率(売上総利益÷売上高)を比較する方法
    • 原価基準法:検証対象となる関連間取引と、比較対象取引のマークアップ率(売上総利益÷売上原価)を比較する方法
    • 取引単位営業利益法:検証対象となる関連間取引と、比較対象取引の営業利益率(営業利益÷売上)又はフルコストマークアップ率(営業利益÷売上原価)を比較する方法
    • 利益分割法:比較対象取引を見いだせない場合、親会社と子会社の利益を一旦合算した上で、一定のロジック(比較利益分割法、寄与度利益分割法、残余利益分割法)に基づいて、当該合算利益を親会社子会社に再度分割することにより、比較対象取引が独立企業間価格となっているかどうかを検証する方法
  • 現地における移転価格税制:日本の移転価格税制のみならず、海外子会社の所在地国の移転価格税制も考慮に入れる必要がある。

  3-3 源泉徴収税

(参考:佐和・国際税務27頁)

  • 問題の所在:JPN社が、A国に所在するJV社から取引の対価を受け取る際、一定の取引については、源泉徴収の対象となる。
    • 例えば、日本法人JPN社が海外子会社JV社に対し技術ライセンスを提供し、JV社がJPN社に対しロイヤリティを支払う場合、当該ロイヤリティの支払いは源泉徴収の対象となることが多い。この場合、ロイヤリティが100で源泉税率が10%とすると、JV社はJPN社に90を支払い、10をA国に納税することになる。これは、JPN社がA国で役務提供を行ったことの対価(A国源泉所得)と考えられるからである。
  • 対象取引:何が源泉徴収の対象となるかについて、またその場合の税率については、海外子会社の所在地国の税法により決まる。
    • 一般的に源泉徴収の対象となるのは、「賃料」「利子」「配当」「ロイヤリティ」「人的役務の報酬」等である。
    • 通常、租税条約が締結されている場合には、より有利な税率(低い税率)が定められていることが多いため、当該取引がその租税条約の適用対象となる否かについて確認が必要となる。
  • 二重課税:上記の例で、JPN社が受取ロイヤリティ100について、日本で30課税された上に、A国でも10課税されるとなれば、二重課税が生ずることになる。この場合は、外国税額控除で調整を行う。
    • 具体的には、日本での課税30からA国での納税額10を控除し、最終的な納税額は20となる。
    • 但し、外国税額控除には控除限度額が存在することに注意が必要である。
  3-4 過小資本税制/過大支払利子税

(参考:加本・タックス184頁、佐和・国際税務137頁)

  • 問題の所在:JPN社がJV社に対して貸付けを行う場合、JV社の所在地A国が高税率の場合、配当還流よりも利息還流の方が有利になる。もっとも、この場合、海外子会社側の利息の損金性について、「過小資本税制」や「過大支払利子税」について配慮が必要となる。
    • 配当還流の場合:現地A国で配当源泉税が課される可能性がある。
    • 利息還流の場合:相対的に高税率の現地A国で利息を損金算入でき、かつ、相対的に低税率の日本で益金を認識するというタックス・プランニングが可能となる。
  • 過小資本税制:これは、負債の自己資本に対する比率を一定の水準(例:3対1)までに制限し、それを超える部分の支払利息を損金不算入とする制度である。
  • 過大支払利子税制:これは、関連者に対する純支払利子等を調整所得金額の50%までに制限し、それを超える部分の支払利息を損金不算入とする制度である。
  3-5 輸出免税
  • 問題の所在:日本のJPN社がA国のJV社に対して製品を販売(輸出)し、JV社からそのた対価として100を取得する場合、当該対価に消費税が課されるかどうかという問題がある。
  • 輸出売上:まず、輸出元である日本においては、輸出売上については、消費税はかからない(輸出免税)。
  • 輸入仕入:これに対して、輸出先であるA国において、輸入仕入に消費税等(VAT:Value Added Tax)がかかるかは、A国の税制次第である。
    • 日本の場合:なお、海外からの輸出先が日本である場合、輸入仕入は消費税の対象となる。すなわち、外国貨物を保税地域から引き取る者は、原則としてその引取りの時までに輸入申告書を提出し、消費税を納付しなければならない(輸入消費税を通関業者が立替払いするケースでは、通関業者の請求書に記載されている場合がある。)。
すべての投稿
×

もう少しで完了します。

あなたのメールアドレスにメールを送信しました。 読者登録の承認のため、届いたメールのリンクをクリックください。

OK